屋敷内では言い争いが続いていた。
もう二十分も。
「オレとナランチャが顔合わせるのはまずいだろ?」
自分の方を見られたので、ホルマジオは慌ててそう付け加える。
「イルーゾォ、おまえが行け」
「オレだってアバッキオに会いたくない!」
実は二十分前から、屋敷の玄関先には、ブチャラティ達がご丁寧に三人揃って立っている。
サメのお礼に、とやって来た。
そこで誰が応対するかで揉め始め、未だに結論が出ない。
「兄貴ぃ……」
元はと言えば、自分が釣りをしていたせいだ。ペッシは涙目で訴える。
「おいおいペッシ、オレだってブチャラティと会うのは気まずい。他の奴に行かせろよ」
「直接関係持たなかった、あの二人にしろよ」
あの二人。
いつも、いることはいるがあまり会話に参加していない仲良しコンビを、誰かが指差した。
「……あいつらに客のもてなしができるのか?」
「やっぱりここはギアッチョだろ。あの三人とは会ってないんだから」
「それはやめようぜ。ギアッチョにストレス与えると後が大変だ」
「じゃあ後はメローネが……」
「それもやめよう。オレ達全員、変人の集まりだと誤解される」
「オレは行ってもいいぜ?」
のほほんと構えていたメローネのその言葉に、全員が頭を振る。
「だいたいこんな時にリゾットは何処に行ったんだ?」
こういう時に一番役に立つ人材が、なぜかいない。
「そういえば朝から見てないな」
いつもは何か喧嘩が始まるたびに聞こえる怒鳴り声が、今日はまだ一度も発せられていなかった。
おろおろしているペッシに、プロシュートが声をかける。
「そもそもあいつら、誰に礼を言いに来てんだ?」
「あ、それがその……やっぱり代表者っていうか、リーダーっていうか、その……」
結局リゾットか。
「だったら話は早えじゃねえか。今いないからって追い返せ」
「でも兄貴、もう二十分も待たせてんですよ? わざわざ来てもらったのに、今更そんな……」
「なあペッシ、この近さで、わざわざも何もねぇだろ。出直してもらえばいいだろ?」
「でも……」
そうは言っても、本当にリゾットがいないのだからどうしようもない。
ペッシも諦め、それを伝えに行く。
その背中を見送った後、ホルマジオが全員を振り返る。
「それで? リゾットは何処に行ったんだ?」
あいつがいないから、こんな些細なことまで大事になってしまう。
「さあ? 聞いてない」
順に顔を見る。
誰もが同じ反応。
誰も聞いていないらしい。
しかし、既に午後。
朝皆が目を覚ます前から外出して、まだ戻らないというのは少し遅すぎる。
第一あのリゾットが、行く先も告げずに出掛けるなんてことそのものが珍しい。
ホルマジオが少し考え込んだその時、ペッシが大きな箱を持って戻って来た。
「ん? なんだそれ」
「ブチャラティが置いてったんすよ。サメの礼だって」
「几帳面な奴だな、あいつ」
何が入っているのか、ペッシ一人では支えるのがやっと。
多分、好意でくれた物なのだろうから、変な物は入っていないだろうが。
そう思いながら、ホルマジオが蓋を開ける。
「……嘘だろ……?」
「何が入ってたんだ?」
絶句するホルマジオを見、興味津々といった顔でメローネが中を覗き込む。
「うっ……」
メローネさえも息を飲む。
「……ディ・モールトすごいぞ」
何が?
問う前に、メローネが中身を取り出す。
「………」
「………」
「……何だ、その瓶?」
やっとの思いで、イルーゾォが声を出す。
透明な液体の詰められた瓶が三本。
「説明書きがついている」
メローネがそれを読み上げる。
「地下から汲み上げた水です。ご賞味ください」
「……は?」
地下水?
「面白い男だな、ブチャラティってのは!」
メローネだけがなぜか上機嫌だったが、他はただその瓶を眺める以外何もできず、ただそこに立ち尽くす。
「10.…ここは野営地」へ
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