賑やかな洋館の裏手には、深い森が広がっている。
海があって丘があって、どうしてその背後が森なのか。でたらめな地形だが、天国はそういうもの。
そこを子犬が一匹、迷うことなく走り抜ける。
やがて犬の視界に、小さな山小屋が入る。
「おかえり、イギー」
四歳くらいの男の子は、犬を抱き上げると頬を擦り寄せた。
「潮の匂いだ。あの鏡の男の子に遊んでもらってたのかい?」
彼は死ぬまでは、鏡の中の世界、というファンタジックな物は信じていなかった。ので、ある日、小屋の鏡から子供が出て来た時は本当に驚いた。
しかもその子はイギーを連れていた。たまたま自分の家に迷い込んで来たので、ここまで送って来たのだと説明され、お礼に栽培していたハーブを分けてあげた。
それ以来、イギーはよく姿を消す。その子が気に入ったのだろう。
別にこの子犬は彼が飼っているわけではなく、成り行きで一緒にいるうちに居着いてしまっただけなので、どこで何をしていようと構わないのだが。
「ねえ、イギー。今度、あの子を誘ってキャンプファイアーやってみたいな。僕、一度もやったことがないんだ」
せっかく山小屋を建てたのだから、そういう遊びもしてみたかった。残念ながら、アウトドアなイベントは一人ではつまらない物が多いので、今まで手を出せずにいた。
「今度アヴドゥルさんが来たら頼んでみようね」
火を使う遊びは危ない。だが、火の専門家がいれば大丈夫。
「でも……アヴドゥルさん、子供になっちゃったせいだろうけど、なんだかちょっと短気だよね」
つまらないことを頼んだら怒られるかもしれない。
普段はどこで何をしているのか、時々ふらりと顔を見せてはイギーを構ってまたすぐにいなくなる。
「おまえは遊び相手がいっぱいいていいね」
愛くるしい顔をしていても、この犬は実際はひねくれ者だ。どんなことを考えているのかわからないが、勝手気ままに、どこへでも行く。
「僕も友達増やそうかな……?」
生きていた頃の友達は、まだ当分ここには来ないようなので、ここで探すしかない。
「ジョースターさんのおじいさんは、ディオとすごく仲良しだし……ポルナレフ、まだ来ないのかな?」
どうも死んだらしいのだが、まだ向こうに残っている。
仕方がない。
いつもイギーが遊びに行くという家に、何か手土産を持って行ってみよう。
「いいかい、イギー。今度行く時は、僕も誘ってくれよ?」
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