丘の上の洋館では、黒ずくめの七歳くらいの少年が、他の子供を叱りつけているところだった。
「暴れるな! 誰が片付けると思ってるんだ!」
叱られた三人は、すぐに大粒の涙を流してみせた。
「わぁ〜んっっ、リゾットごめんなさい〜」
本当に涙が出てしまったのか、わざと泣いているのか、リゾットには判別できないので、説教はそれで終わりになる。
「まったく、おまえ達は。死んでもその性格は変わらなかったか。……ペッシはどうした?」
一部屋に集まっている子供達を見回し、一人足りないことに気づいたので、兄貴分に尋ねてみる。
「また釣りに行った。ほら、あの波が入るんじゃねぇかってくらいの近さの家の前まで」
どこの馬鹿があんなとこに家を建てた知らねぇが、そのうち流されるんじゃないか。
プロシュートの独り言に、リゾットはここから見下ろせる位置に建つ家を眺めた。
確かに常識からは有り得ないような所に家が建っている。家がある以上、住人もいるはずだ。まだ顔を合わせたことはないが。
「それよりも……プロシュート」
リゾットはくるりと振り返り、プロシュートを名指しする。
「なんだ?」
呼ばれた当人は、安楽椅子に腰を下ろし、長い足を組んで酒の入ったグラスを傾けていた。
「……いい加減、子供に戻れ」
二十代の青年の姿のプロシュートは、小さなリゾットを抱き上げると、自らの膝に下ろす。
「こっちの方が慣れてるから落ち着くんだ。おまえも、二十八歳になるか?」
死んでもスタンドがそのまま。これはいいことなのだろうか。少なくとも、プロシュートのしている事は反則だと思う。
どこを見渡しても子供しかいないのだから、無理に加齢させる必要などない。
しかしこの男は絶対に子供の姿になろうとせず、リゾットがここに到着してから今まで、ずっと青年のままだ。
プロシュートより前に来ていた四人にもそれとなく聞いてみた。結果、『ある日突然、大人の姿でペッシを背負ってここに現れた』と教えられた。
つまり、まだ誰も、幼児姿のプロシュートを目にしていないということだ。
結局、この厄介な集団をまとめる役目は自分に回って来てしまった。もう部下でも上司でもないのだから、見捨てても構わないはずだ。そのうち家出しようかとリゾットは考えている。
と。
「キャンキャンキャン……!」
子犬がリゾットの靴を囓っていた。
「なんだ、これは?」
リゾットが子犬を摘み上げると、ばたばたとイルーゾォが走って来た。
「あ、イギーだ。イギーだ」
「知っている犬か?」
「裏の森にいる日本人が飼ってる、犬のスタンド使い。死んでもスタンド使い同士は引き合うんだな」
普段から構っているのか、子犬はイルーゾォに懐いている。
「さっさと返して来い」
「いやだ。森まで行きたくない。遊びに来てるだけだから、満足すれば勝手に帰るよ」
しばらく犬と戯れるイルーゾォを見物する。
こうやっていると、本当に無邪気な子供のように見えるのに。
しかし、静寂は長く続かない。
また背後で誰かが喧嘩を始めた。
放っておこうかと思ったが、他の誰も止めようとしない。
仕方がないのでリゾットはまた声を張り上げた。
「メローネ、家具を分解するな! ギアッチョ、家の中に氷を張らせるな! おまえたち、外でやれ!」
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