4.

 ブチャラティが始末をつけるはずだった男。
 彼はまず、ペッシに近づいた。
 新薬のルート開拓を依頼したい、という話に乗せられたペッシは、チンピラの手の内で踊らされるだけ踊らされ、そして。
 チンピラは話の辻褄が合わないことを怪しまれて捕らえられた。
 一家の情報を安易に漏らし、アジトにまで案内したペッシもまた、捕まった。
 二人は同時に始末されるはずだった。
 そこに現れたのが、ブチャラティとバズーカの男。
 一人は弟分の救出の為。
 もう一人は、口封じの為に。


 ブチャラティは冷ややかにチンピラを見下ろした。
 どうせなら、あの乱戦の中で流れ弾に当たってくれれば良かったのに。
 そうすれば。
 今こうやって、もしかしたら生き延びられるのではないかという淡い期待を抱くことも無かった。
 希望を見出した直後に、再び絶望を感じることも、無かった。
 銃を頭に突きつけ、ブチャラティが今まさに引き金を引こうとした時。
 初めてそいつは口を開いた。
 覚悟は出来ていたのだろう。静かな口調だった。
「……ポルポさんの命令通りに動いて、そしてポルポさんの命令で殺される、か……」
「どういう意味だ? おまえが勝手にしたことだろう?」
 ポルポの命令に背いて、私利私欲の為に組織を危うくしようとした男の言う台詞ではない。
「今にわかる。……あんたもきっと、ポルポさんに使い捨てられる日が来るだろうから」
 ブチャラティを見上げる目は、澄んでいた。
 真っ直ぐにブチャラティを見つめるその目。
「……ポルポさんの命令で動いていたのか……?」
「当然だ。オレは、組織の為に働いて来たんだから」
 その目。
 ブチャラティは銃を下ろした。
 この男は、嘘は吐いていない。
 もう、殺せない。


「で? おまえらはどうする?」
 バズーカの男、兄貴。
 弟分のペッシを従え、しばらくブチャラティ達の遣り取りを見ていたが、銃を下ろしたと同時に声を掛けて来た。
「ブチャラティはそいつを殺さないことには帰れない。そいつも、生きてるわけにはいかない。ポルポの命令ってのは、そういうことだろ?」
 その言葉は、ブチャラティがもう、彼に対し殺意を抱いていないことを正確に読み取っているらしかった。
「わかるか……?」
「わかるぜ。ブチャラティがどういう男なのか、性格もオレは把握してるからな」
 兄貴と呼ばれる男は、再び自分の頭をコツンと突いた。
「帰るに帰れないのは、そっちも同じだろう?」
 仲間を手に掛けてしまったのだから。
 処刑されるはずだった弟分を救うために、十数人の仲間を葬った。兄貴と呼ばれる男もまた、組織に背いたことになる。
 それを問われ、兄貴と呼ばれる男は腕を組んで首を傾げた。
「そうだな……とりあえずこれも何かの縁ってことで……」
 一旦言葉を切り、ブチャラティへ目配せする。
「一緒に逃げてみるか?」

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