何処カヘ吹キ飛バサレル。


 強烈な何かによって、引き寄せられるように飛ぶこの感覚。


 痛イ。痛イ。痛イ。


 全身が燃えるようだった。
 体中が、バラバラになって行くような激しさ。


 痛イ。熱イ。痛イ。熱イ。


 幻覚かもしれない。
 もう痛みなんか感じない。
 そのはずなのに、まだ痛いと叫ぶ声がある。


 痛イ。セナカ。ウデ。クビ。アシ。痛イ。


 そして目を見開いた。


 何も、無かった。


 あるべき場所に、あるべき部位が見当たらない。
 体中が、どこかへ砕け散っている。


 痛イ。痛イ。痛イ。


 泣いている。
 感情と、理性が別々に存在しているのか……?
 泣いているのは、僕なのか……


 痛イ。痛イ。
 …………オ姉チャン。痛イヨ。


 こんな時に誰を呼んでいるんだ、僕は。
 もうじき死ぬって時に。
 いや、そうじゃない。そうじゃなかった。
 もう僕は死んだんじゃないのか。
 身体が無い。
 何も、無い。
 死んでいるんじゃないのか、これは。


 痛イ。怖イ。怖イ。痛イ。


 同時に二つのことを考えているんだ、きっと。
 完全に二つに分かれているんだ。


 嫌ダ。痛イ。熱イ。怖イ。
 死ニタクナイ。
 死ニタクナイ。
 怖イ。


 強い風が僕をどこかへ飛ばしている。
 あの小娘が言っていたな、そういえば。
 町の空を飛んで行くって。
 今頃、あの小道から僕を見上げているんだろうか。


 痛イ。嫌ダ。痛イ。
 行キタクナイ。
 何処ニモ、行カナイ。
 痛イ。怖イ。


 景色すら見えない。
 信じられない早さ。


 助ケテ。僕ヲ助ケテ。
 痛イ。痛イ。


 少し余裕が出て来たのか。
 身体が滅茶苦茶だっていうのに、こんな僕に何かが絡み付いているのがわかる。
 蔓のような物が僕を縛り付けて、それが僕を何処かへ引っ張ろうとしている。


 痛イ。熱イ。
 指ガ無イヨ。僕ノ大切ナ指ガ無インダ。
 痛イ。痛イ。指ガ痛イ。


 イヤリングを片方だけ、外した。
 投げ捨てて、できるだけそこから離れた。
 あの瞬間に、できることはそれだけだった。
 片方だけのイヤリングは、きっと爆発せずに残るだろう。
 彼等はそれを見つける。
 僕が与えるヒントはそれだけだ。どう判断するかは連中次第だ。


 この状態は何かに似ている。
 そう。
 葡萄だ。
 葡萄の蔓が、他の物に巻き付いて生長する。今僕に絡み付いているこれは葡萄に似ている。
 死という名の葡萄が、僕を取り込んで生長していく。


 痛イ。助ケテ。オ姉チャン。


 耳の奥で……もう耳なんて無いのに変な話だ。
 だが耳に反響する声は本物だ。
 僕自身の泣き声。
 僕の感情は、子供に戻ってしまったというわけか。


 葡萄を連想したからか。
 絡み付く蔓は、やがて本当に葡萄の蔓へと変化した。
 実体の無い物は、僕の望み通りの姿になるのかもしれない。


 だったら、僕は葡萄の葉になって、この蔓について行こう。
 抗うのは無意味だから。


 そして。
 この泣き止まない子供のようになってしまった、僕の感情。
 おまえは房になれ。実になって、落ちて行け。


 僕はこの蔓から逃れられそうにない。
 だからおまえだけが行け。
 大好きなお姉ちゃんのところに、落ちて行け。


 痛イ。怖イ。
 オ姉チャン、オ姉チャン。


 願うだけで全てがその通りになるようだった。
 こうやって考え続ける僕は葉の形状に変化し、蔓と一体化する。
 泣き続ける僕の感情は、その先で房となり、そして落ちた。
 町の中へ戻ればいい。


 願いが本当に叶ったのかどうか。
 もう確かめる術はない。


 僕は蔓にしがみつく葉になって、何処かへ飛ばされて行く。

メニューページへ
Topへ