駅前は様々な人が行き来する。
 露伴が往来でプロポーズされている現場を目撃していた中には、長ドスを携えた女子高生もいた。
 制服の着方や鉢巻きなどから、この町の暴走族のメンバーだということくらい、町民にはすぐにわかる。
 彼女はここで、親しい二人の仲間を待っているところだった。彼女のバイクは昨日から調子が悪かったため、先程一人で修理屋に出向き、今再び仲間と合流し、チームの中でも一番の美形とされている少年に会いに行くつもりだったが、その二人があまりに遅く、もしや抜け駆けされたのではないかと疑い始めた頃だった。
「先生っ、愛してますっ」
 なんだぁ、あれ? だっさい女が、何かなよなよした男に迫ってるとこじゃん。
 彼女の目に、露伴程度の体格は“なよなよしている”としか映らない。
 一応、彼女も少年ジャンプは読むが、さすがにそこで連載している漫画家の顔までは知らないので、露伴が誰かということまでは気づいていなかった。もしわかったとしても、サインを求めるようなことはしなかっただろうが。紙に名前を書いて貰って、それのどこが嬉しいのかわからない、というタイプだからだ。
 変な格好してるしよー、あれが男の着る服かぁ?
 女の子なら誰もがダイエットに勤しんで、その成果を誇るためにああいった服を着るだろうが、男の臍など見たくもなかった。
 やっちまおうかな。
 丁度、いい具合に財布が半分見えている。
 結構ぶ厚いじゃん。いけそーだなー。
 あんな服を着て歩いていることも気に食わなかったが、それよりも、自分より一つか二つ程度しか年が違わなそうな若造のくせに、厚い財布を持ち歩いていることの方が腹立たしい。
 よし!
 彼女が決意した時、男は女の手を引いて走り出した。
 なんだよっ、急に。
 掏摸取るプランはある程度出来ていたのに、これでは計画が台無しだ。
 一度周囲を見回し、まだ仲間の来る気配が無いことを確認すると、彼女は二人を追って路地裏へと急いだ。


 顔を半分覗かせ、彼女は二人の様子を伺った。
 こいつら、人気がないとこに入って何やってんだ?
 見れば、女は道に倒れているし、男はその顔の辺りに屈み込んでいた。
 男の背中が邪魔で、何をしているのかよくわからない。
 数分、二人はそのままだった。
 だんだん、覗きをしているような気持ちになり、彼女は少しだけ困り始めていた。
 別にあの男の恨みがあるわけではないし、ああいうカップルの動向が気になって仕方がないというわけでもない。ただ暇つぶしにちょっと金を盗ってやろうという悪戯心が、今彼女をこんなところに立たせているだけだ。
 考えてみれば金銭に不自由しているわけではない。昨日パチンコで少し儲かったから、しばらくは保つ。けれど、今ここで幾らか手にできれば、今日またパチンコで遊べるし、狙っていた景品も取れるかもしれない。
 いつまでもこんなとこにいたら、レイコとヨシエが二人きりで裕ちゃんのとこに行っちゃうかもしれない……。
 もう一度、二人の様子を伺ってみる。
 なよなよした男は手だけ動かして何かしていて、女は倒れたきり動こうともしない。
 なんか、気に食わない男だよな、あの野郎。
 センスもおかしいが、目付きも悪い。ああいう頭の良さそうなタイプは、それを鼻に掛けて偉そうに振る舞うか、でなければ頭がどこかおかしいかのどちらかだと決まっている。
 人を見る目はそれなりにあるらしい彼女は、この掏摸行為が失敗した時のことを少し想像してみた。
 ああいうのはきっと、物凄く怒るんだよなー。あたしみたいなのに財布盗られたのが悔しいから。
 腕力無さそうだから、殴られても痛くはないだろうけど、でも絶対殴るよなー。女でも手加減しない奴って、みんなああいう顔つきだし。
 それよりあの財布、本当に金入ってんのか。あ、良く見たらいい靴履いてる。あれ、スーパーとかで特売してる安物なんかじゃないじゃん。
 やっぱり、盗ろう。
 金は幾らでもあった方がいい。無くて困ることはあっても、多過ぎて困ることはない。
 と。やっと男が立ち上がり、こちらへ向かって来た。
 おい、女ほったらかしじゃねーか。
 呆気に取られてしまった分、行動が遅れた。
「ム!」
 思い切り目が合ってしまった。
「あ……!」
 とりあえずここはこちらから喧嘩を売るしかない、そう思ったところで意識が途切れた。


 気づくと、例のださい女と同じように道に寝ていた。
 女の方はといえば、いきなり道の真ん中に座り込んで、何かよくわからないが思い詰めた顔で泣き出している。
 なんだ?
 辺りを見回したが、なよなよした男はもうどこにもいなかった。
 腑に落ちないが、とりあえず立ち上がった彼女の目に、ださい女の手荷物が映る。中身が半分零れている。
 あ、財布!
 泣き崩れている女は、そのことに気づいていないようだった。
 彼女はそっと手を伸ばし、中身を確認すると、そこから十万だけ抜き取り、後は財布ごとバッグの中に押し戻した。


 駅前に戻ると、ヨシエとレイコが苛ついた様子で彼女を待っているのが見えた。
 三人で、一時間くらいはパチンコができるだろう。
 彼女は十万円を握り締め、二人に駆け寄った。

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