聞こえますか、私の声
私はここに棲みついているだけのただの鳥。
食事は自分で捕った獲物。
ここで出される餌は、ある条件が満たされた時にしか手を付けない。
そう決めている。
執事は私にあまり構わない。
彼も私も、主を想っている。だが同じ仲間とは認めていない。
彼にとっては私はただの鳥。
私の目に、執事はただ屋敷にいるだけの男として映る。
私の主は夜だけ姿を見せる。
しかし、昼の間、この屋敷を守っているのはこの私。夜は眠るだけ。
もう何日も、主には会っていない。
昼が何十回も来る前の夜、私は主の手から餌を与えられた。
甘美なその生き餌を、私は生まれて初めて美味いと感じた。
あれから何十回も夜と昼を繰り返した。
あれ以後、一度も主から餌を貰っていない。
ただ、あの味を思い出すだけの昼と夜。
私はここに棲みついているだけのただの鳥。
主に触れられる手足を持たない、ただの鳥。
主に仕える他の者と、同じ姿勢で傅くことすらできない、ただの鳥。
主にこの想いを伝えるための、主や他者の使う言葉を持たない、ただの鳥。
私の忠誠は、私の日々の行動でしか示せない。
私はただの鳥。
ただ棲みついているだけの鳥。
主のためだけに、この屋敷に近付く者全てを排除する、ただの鳥。
後ろ足で歩き、前足で物を掴むニンゲンは、個々を表す呼び方を持つ。
“ナマエ”
私にも、それはある。
だが私は、主のナマエを知らない。
呼びかける言葉を持たない私には、主のナマエを知る必要すらない。
私にニンゲンの言葉が使えたならば。
ただの鳥である私にその力が与えられたならば。
私はそれを、主のナマエを呼ぶためだけに使うだろうに。
私の主。
私はここに棲みついているだけのただの鳥。
滅多に会えぬ私の主。
主、貴方に私の声が聞こえるだろうか。
ニンゲンには通じることのない、私のこの声が。
太陽が隠れる瞬間、私はいつも叫ぶ。
私の主。
私の主。
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