蹂躙された精神
一つずつ奪われる。
リゾットが部下に会うのは、年に一度。
個別に連絡を取り、一人ずつ接触する。
姿を見せることは殆ど無い。彼等はリゾットの顔を知らない。
リゾットもまた、彼等のことは顔とその能力、電話番号しか知らない。
不必要な情報が頭の中にあるのは危険。
世界に存在しているスタンド使いの中に、どんな能力を持つ者が存在するかわからない以上、用心は不可欠。
知らないことの多い部下。
一つ目が消えた。不通となった電話でそれと知る。
警察のデータに侵入し、身元不明死体が一つあることを確認。
「ホルマジオか……」
数回しか顔を合わせたことのない部下。
顔だけはしっかりと覚えている。口癖も。
死体を引き取ることはできない。
彼について思い出せることを回想する。しかし、何もない。
何も無いことが、リゾットに痛みを与える。
その程度の付き合いしかしていない人物に、死にに行けと言った自分。
ホルマジオがいなくなったと分かった途端に、次の刺客を模索し始めた自分。
二つ目。
三つ。四つ。
あと半分。
部下が死ぬのは、二年振り。
二年の間、彼等は誰一人脱落しなかった。
部下達は部下同士で、それなりの付き合いをしていたようだった。
犠牲になった二人の件で、彼等は彼等なりに思うところがあったのだろう。
その直後に会った時、彼等は全員同じことをリゾットに訴えた。
異論は無かった。
二年の沈黙。
最初に動いたホルマジオがした二つの失敗。
獲物を取り逃がしたこと。そして、足取りを掴む為に命を落としたこと。
追跡すればするほど、部下は奪われる。
それでも。
個人的な感傷を抱けない自分がいる。
感じるはずの全てを、遠い日に失ったことすら忘れていた。
何故何も感じないのか、思い出すこともなく。
また一つ、消える。
最後の一つ。
一つずつ、奪われる。
奪われ尽くした後に、垣間見た彼等。
軽いジョークと笑顔。
自分の部下の顔に浮かぶことのなかったその表情。
何故か。
いつも何か言いたげな顔をしていた部下達を思い出す。
もしかしたら彼等が望んだのは、地位や金銭、利権ではなかったのかもしれない、と。
スーツを纏った黒髪の、細身の男を見下ろす。
遠くに見える彼を中心にした少年達。
消えて行った部下はもう何も言わないけれど、彼等が欲したリーダーは多分、あれ。
「……オレとは縁遠い」
部下の信頼も得ておらず、彼等が何を考えていたのかすら知らなかった自分。
いつからか、失っていた全て。
暗殺者には不必要だった全て。
精神の根底から何もかも侵されていたのだと知って尚、取り戻せないもの全て。
その人物の言葉が、頭の中に強く反響する。
誇り?
そんなものは無い。
ただ。
許せないと思った。だから動いた。
全て奪われ尽くした今になって、初めて感じた怒り。
失うまで気づかなかったもの。
奪われ尽くし、空になった自分。
もう何も奪われるものなどないと思っていた。
価値のあるものはもう何もないと。
自らの生命さえも、何の値打ちもないと。
順番に全てが奪われる。
十四の歳に、最初の何かを奪われた。
それから。
十四年の歳月を掛けて、一つずつ、全て。
奪われる。
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