眠り

 夢の真ん中には円卓があった。
 椅子は五脚。
 どの椅子を誰が使うのかも知っていた。


 真夜中に目を覚ます。
 机に突っ伏したまま眠ってしまったらしかった。腕を少し動かしただけだったはずなのに、積まれていた本が数冊床に落ち、その音で顔を上げた。


 夢の皿がまだ目の奥にちらついている。
 目を硬く瞑り、それを振り払う。


 徐に、落ちた本を拾い上げる。
 ああ。折れ曲がってしまった。
 別に構わない。全て自分の物だ。多少折れようが破れようが、使う上で支障はない。


 が、その中に、見知らぬ雑誌が紛れ込んでいた。
 特定のミュージシャンの特集記事の載った雑誌。知らない。こんなもの、買った覚えはない。
 これが好きだった人は、知っていたけれども。
 そうか。預かったか借りたか、忘れて行ったのか。そのいずれかの理由でここにあるのだろう。
 もう、保管する必要はなくなった。


 自分の本だけ元に戻し、数冊出て来た余分な物はそのまま床に放置した。
 後から掃除をする時に一緒に片付ければいい。


 夢の卓上にあったティーカップ。
 いつもいつも、それを使っていたせいだ。今のカップに違和感を覚えるのは。


 小道具ばかりの夢。
 人物の登場しない夢。


 こんな夢ばかりでは、近い将来、顔を忘れてしまう。


 煌々とつけられた明かりの下で、よく眠れたものだと思う。
 疲れてでもいたのか。
 机に突っ伏していては、額に跡がついてしまうかもしれないのに。
 こんな姿勢で眠っても、けして癒されないというのに。


 それでも。
 また、同じ姿勢を取る。
 そして目を閉じる。


 こうやって眠れば、同じ夢が見られるのだろうか。
 夢の円卓は、またこの脳裏に浮かぶのか。


 人物の登場しないあの円卓。
 もし人間が現れるとしたら、それは誰の顔をしているのか。
 どんな表情を浮かべているのだろうか。


 そこまで考えて、慌てて椅子から立ち上がる。
 止めよう。
 ベッドで寝よう。
 同じ夢はいらない。
 夢の続きも、いらない。


 現実には起こらなかった、違う世界の夢ならば。
 或いは見たいと望むかもしれない。

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