徘徊
『もしもし、おれだ。メローネの奴と連絡が取れねぇんだけどよ、どうなってんだ?』
『先程、確認した。動けるのは、オレとおまえだけだ』
『……そういうことかよ。で、おれは何処に向かって走ればいいんだ? メローネに任せてたんだぜ?』
『今、ペリーコロの足取りを追跡中だ。手掛かりが見つかり次第、連絡する。それまで待て』
『そんなに待てるかってんだ! このまま見失っちまうぜ!』
『待て、今……写真の解析結果が出た。ヴェネツィアだ。今、そちらに送る』
『ああ来たぜ。ここに行けってか? 今夜中にはヤツらに会えるかもな』
『オレが到着するまでそこで待て』
『馬鹿言ってんじゃねぇぞ! おめー、ここまで何時間かけて来る気だ!? おれの方が近いんだ、待ってられねぇ、先行くぞ!』
『………』
『それによぉ、リゾット。おめーは最後だろ? 違うか?』
『ギ……』
『おれ達は二年前に腹括ってんだ! ……この“くくる”ってのも納得いかねーな。クソッ、とにかくだっ、行くしかねえ! おれとおめーの二人きりじゃ、チームって程のもんじゃねーし、二人で組織乗っ取って、上手くやっていけるとは思えねーが、そんな先のことは後で考えりゃいい!』
*
電話を終えた後、リゾットはローマで引き取ったメローネの体を墓地に運んだ。
夜の墓地は闇に包まれていた。
こんな時間に用のある者など、普通はいない。
誰の手も借りることなく、リゾットは自力で全てを行った。
一体一体回収し、これで五人。
焼け焦げた遺体を火災現場から運び出し、それから何時間も経たぬうちに、次の一人。
その体は、殆ど残っていなかった。リゾットは一人で、僅かな残骸をかき集めた。
線路わきに転がる死体と、数百メートル後方に取り残された右腕。
バラバラになった体を、河から一つ残らず回収した。
その作業を、リゾットは全て一人で行った。
彼等に口が利けたなら、「捨てておけ」と減らず口を叩いたかもしれないが、もう物言わぬ部下達の体を自ら清め、土に還した。
二年前に二人葬った、同じ地所に。
並んだ七つの墓。
土地には、あと一人分の余裕があった。
一人分しかない、と言うべきだったか。
ここに来るべき人間は決まっている。遅かれ早かれ、今回の一件が成功しようが失敗に終わろうが、最後の墓の主は既に定められていた。
二年前に二人死んだ時、リゾットはここに、八人埋葬できるだけの土地を購入した。誰がどこに入るかその順番はわからないにせよ、これだけの数は必要になると知っていたので。
敢えて八人としたのは、最後の一人である自分をここに埋葬してくれる奇特な人間などいないからだ。
そして、彼等の為にここを訪れるのも、自分しかいない。リゾットがいなくなった後は、荒れるだけの墓所。
血で汚れたこの身。まともな死に方はできない。死して後、それを悼む者もいない。
だがせめて、同じ暗闇に身を置く仲間同士、互いにその死を悼んでもいいはずだ。
そう思い、墓を用意した。
「……今日か明日か、十年後になるかはわからん。だが、おまえ達の横に入るのはギアッチョだ。その時はオレがここまで連れて来る」
何も見えるはずのない闇。
端から順に、ゆっくりと一つ一つ正面に立ち、それぞれを感慨深げに眺める。それを幾度か繰り返した。
リゾットには昼間と同じように、そこに並ぶ部下が見えていた。
*
『リゾット、おれだ。リベルタ橋の前なんだが、今車が一台走って行った。盗んだうちの一台に間違いない。ヤツらを追う。朝までには終わる。切るぜ』
『朝にはオレもそちらに着く』
『わかった。後でな』
『ギアッチョ……』
『なんだ?』
『……いや。着いてから直接言う』
『じゃあな、行くぜ』
*
夜明け。
リゾットは最後の部下を回収した。
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